【SCIT】人間関係が上手くいかなくて、休職を繰り返している方のための対処ポイント4つ
臨床心理士 筒井
職場、学校、ママ友など社会生活のなかで人間関係は避けて通ることが出来ません。しかし、年齢も性格も様々な人達と良好な関係を継続することは簡単ではないでしょう。職場においても上司や同僚、取引先などいろいろな人との関わりがあります。苦手な上司、同僚を克服するためのポイントをSCITという治療法からご紹介していきます。
目次
1 SCIT・結論への飛躍とは
2 結論のへ飛躍を避けるための4つのポイント
①感情を理解する
②考え方を変えてみる
③事実と考えを分ける
④情報を集める
3 まとめ
1 SCIT・結論への飛躍とは
SCIT(Social Cognition and Interaction Training)とは対人関係を円滑に進めるために社会認知機能をトレーニングするプログラムです。社会認知機能とは、他者の気持ち(感情)や意図を理解する、他者の発言から文脈や背景を推測するといった、対人関係の基本となる機能です。
社会認知について詳しく知りたい方はこちらのコラムでご紹介しています。
社会認知ってどういうもの? – 就労移行支援と企業向けメンタルヘルスサービスを提供しています – ワンモア (1more.jp)
疲れている時に上司から「昨日頼んだ仕事はどうなってる?」と聞かれ、「仕事が遅い」と言われているように感じて腹が立ったり、悲しくなったりした経験はありませんか?また、ちょっと苦手な人に褒められても、嫌味を言われていると考えて相手を警戒してしまいもやもやしたことはありませんか?
これは、「結論への飛躍」が起きている状態です。結論への飛躍とは、“根拠がない考えを事実と思いこむこと、早合点して決めつけること”を指し、社会認知機能が低下している状態と言えます。上記の例では、上司はただ進捗を確認しただけであるにも関わらず、「仕事が遅いと言われている」と相手の考えや意図、発言の文脈を決めつけて、結論への飛躍をしたと、素直な考えられます。褒め言葉にも関わらず、相手に対するネガティブなイメージから、嫌味を言われたと思い込み結論への飛躍をしています。結論への飛躍をすると、自分の行動だけでなく、相手の気分や行動にもネガティブな影響を与えてしまうことがあります。
下の図を見てみましょう。
状況 上司から「昨日頼んだ仕事はどうなってる?」と言われた。
進捗を聞いた時はニュートラルな気分だった上司も、避けられていることや仕事に消極的なあなたの様子から、ネガティブな気持ちになっていきます。そうすると、上司も関わりを避けるようになっていくでしょう。こうしてお互いに避け合うようになり、接点は減り、関係は悪循環になっていきます。結論への飛躍をしたことで相手の感情や考え、行動にも影響を与え、関係性の悪化や悪循環に繋がってしまいました。結論への飛躍を防ぐことで、人間関係をスムーズ進めていきたいものですね。
結論への飛躍のポイント
①結論への飛躍とは、明確な証拠がない考えを事実だと思い込むこと、早合点のこと。
②どちらか一方が結論への飛躍をすると、相手の気分・考え・行動にもネガティブな影響を与え、関係悪化を招いてしまう。
③自分が疲れている時、相手に対してネガティブな感情を持っている時に結論への飛躍は起こりやすい。
2 結論への飛躍を避けるための4つのポイント
結論への飛躍を避けるためのポイントは以下の4つです。
②感情を理解する
③考え方を変えてみる
④事実と考えを分ける
①感情を理解する
感情は自分の置かれている状態を知るために大切なものです。自分の感情も相手の感情もどちらも理解できることが大切です。コミュニケーションを取るうえでも感情を正しく伝える、読み取ることで行き違いを減らすことができます。相手がどんな気持ちなのか推測するためには、相手の表情を読み取ったり、自分の感情を理解したりすることが役に立ちます。SCITではわかりやすくするために7つに分類して考えていきます。どの感情が自分/相手の気持ちに一番近いか考えてみると思い悩むことも減り、理解しやすくなるでしょう。
またそれぞれの感情を表す表情についても知っておくと良いでしょう。眉、目じり 、口角の3点が上がっているか下がっているかを確認することで表情を読み取ることが出来ます。「昨日頼んだ仕事はどうなってる?」と声をかけた時の上司の表情はどうだったか。表情の3点を確認することで、相手の感情を正しく理解することが出来るでしょう。また、その人がニュートラルな状態でどんな表情をしているか知っておくことで、表情の読み違いを減らすことが出来ます。声をかけづらい人の顔はどんな顔でしょう ?
②考え方を変えてみる
上司から「昨日頼んだ仕事はどうなってる?」と声をかけられた時、あなたならどんな考えが浮かびますか?原因の所在によって考えは違ってくるでしょう。「誰/何を原因と考えるか」を原因帰属と呼びます。原因帰属には3種類あり、どれかに偏らずバランスよく考えられることで結論への飛躍を防ぐことが出来ます。
自責が強い人、他責が強い人など浮かびやすい考えは人によって違います。また、疲れやストレスなど心身の状態が悪いと、より極端な方向へ考えは広がっていきます。自分の特徴や状態を知り、違うタイプの考え方をしてみることで考えをニュートラルに保ち、結論への飛躍を避けることが出来るでしょう。
③事実と考えを分ける
日常会話の中では事実と考えは混ざっていることがほとんどです。例えばあなたが「昨日頼んだ仕事どうなってる?って聞いてきて、私のこと仕事ができないってあきれているみたいなの。」と友人に話しをしたとします。この場合、事実と考えはそれぞれどの部分でしょうか?
「昨日頼んだ仕事どうなってる?って聞いてきて、➡事実
私のこと仕事ができないってあきれてるみたいなの。」➡考え
話の中でセリフを聞けば、友人は「上司はあなたにあきれている」と事実と異なる内容を受け取るかもしれません。事実と考えの違いを確認しましょう。
話をする側も聞く側も事実と考えの違いを意識していないと、間違ったことを事実と認識してしまう可能性があります。これでは結論への飛躍に結びついてしまいますね。
もう一つ例を見てみましょう。
「同僚は私のこと嫌っているから、話しかけるといつも困った顔をするの。向こうから話しかけてくることも少ないし、私のことよっぽど嫌いなのね」
この文章の事実はどの部分でしょう?
同僚は私のこと嫌っているから、➡考え
話しかけるといつも困った顔をするの。➡表情を正しく読み取れていれば事実
向こうから話しかけてくることも少ないし、➡少ないと感じる程度は人によって異なる
私のことよっぽど嫌いなのね”。➡考え
話す内容によって、事実はほとんど含まれず、考えばかりになってしまうこともあります。嫌っているかどうかを確認するためには、同僚の表情や置かれている前後の状況など多くの事実を確認する必要があります。少ない情報で決めつけるのではなく、事実はどうであるかを意識することで結論への飛躍を防ぐことが出来るのです。
④情報を集める
「③事実と考えを分ける」で事実を確認することが重要であるとお伝えしました。上司から「昨日頼んだ仕事どうなってる?」と言われあきれられていると思った例では、どのようにして情報を集め、あきれられているかどうかを確認することが出来るでしょうか?情報集める方法には以下のようなものがあります。
- 本人に直接聞いてみる
- 本人にメールなどで聞いてみる
- 第3者に聞いてみる
- しばらくたってから(次の日など)聞いてみる
- 関係のない話をしてみて様子を見る
- 遠くから観察する
- 何もしない
それぞれの方法にはメリットデメリットがあります。
例●本人に直接聞いてみる
メリット:相手の考えていることがその場でわかる、気持ちがスッキリする
デメリット:聞き方によっては相手を怒らせる/悲しませる/驚かせる可能性がある、
直接聞くのは怖い/ハードルが高い
●何もしない
メリット:相手とのトラブルを避けることが出来る、精神面での負担が少ない
デメリット:情報が手に入らない、問題が解決しない
それぞれの方法を組み合わせたり、タイミングを分けたりしてみることで上手に情報を集めることが出来ます。試しやすい方法から少しずつ確かめていくと情報を集めやすいかもしれません。
3 まとめ
今回は人間関係が原因で休職を繰り返してしまう方のための対処法をご紹介しました。人間関係では、勘違いや思い込み、つまり、結論への飛躍から他者に対して苦手意識を感じてしまうものです。大事なことはこの結論への飛躍を防ぎ相手を正しく理解し対処することです。そのためには、4つのステップで対処していくことが有効です。
1、相手の感情を正しく理解する
2、一つの考えにとらわれるのではなく、3つの原因帰属から考えを広げてみる
3、事実と考えを区別し、まだわからない部分を見つける
4、 はっきりしない部分について情報を集める
事実を確認していく中で、「本当に嫌われていた」「気分屋で扱いにくい人だ」と気づくことがあるかもしれません。たくさんの人が働く職場では仕方のないことです。しかし、事実が明らかになったのなら、相手との適切なつき合い方について考え、自分を守るための距離感について考えることができるでしょう。職場での快適な人間関係のために、ぜひ4つのステップを試してみてください。