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ワンモア八尾Vol.3 オオサカポテト渡邊博文さんインタビュー 〜農家から見る農福連携の可能性〜

今回は、オオサカポテトの渡邊博文様に実習でお世話になっているワンモア八尾のスタッフがお話を伺いました。

オオサカポテトは、大阪府八尾市を中心にシルクスイートという品種のさつまいも栽培を行っています。大阪農業が抱える都市特有の社会課題を解決するため、新しく農業を始めた若手農家団体です。シルクスイートの大阪ブランド「夢シルク」の栽培や、加工品の販売をされています。

 就労移行支援施設ワンモア八尾との取り組みや、農福連携の難しさ、やりがいについてお話しいただきました。

インタビュワー→🎤 渡邉博文さん→🧑‍🌾 

●渡邊さんってどんな人?

🎤ワンモア八尾と渡邊さんとのお付き合いもだいぶ長くなって、2年近くなんですが、まずは、渡邊さんが農業と出会ったきっかけとか、活動についてお話しいただけますか?

🧑‍🌾大阪の八尾市を中心にさつまいも農家をしてます、渡邊と申します。なんか恥ずかしいんですけど。(笑)

 農家としてお仕事を始めたのは今から二年前になるんですけど、その前までは広告関係のお仕事をしていました。週末の趣味として農業を始めたところから、どんどんどんどん農業が面白くなっていきました。広告の仕事と農業を絡めることで、都会ならではの面白い農業ができるんじゃないかなと思い、二年前に会社を辞めて農家になりました。大阪の耕作放棄地(以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地)をなくしたい、子供たちやたくさんの人に農業体験してもらいたいという思いで、活動しております。

 去年は大阪発祥のブランドさつまいも「夢シルク」を15反・25トンと大規模な栽培を行なってみたりとか、ワンモアさんと組ませていただいて農業と福祉の連携とか、都会ならではのちょっと変わった農業に色々挑戦しております。

🎤はい、ありがとうございます。ワンモア八尾でも週に1回、畑の手入れをお手伝いさせてもらっていて、去年はお芋掘りイベントやオクラの栽培など、いろいろ体験をさせていただきました。クラウドファンディングも絶好調ですよね。夢シルクで作った芋焼酎を作られたり、本当に、どんどん、どんどん膨らんでいってるなって思うんですが。

🧑‍🌾都会の農業っていうところにすごく面白さを感じてて。というのも、やっぱり事業者さんが近くにいっぱいいるので、今おっしゃったように、農業の作物を更にもう一個加工品にして販売したりとか。あとは生活者が近いので、そこの農業、野菜としての価値だけじゃなくて、そこに体験という付加価値をつけて農業体験っていう形で販売をするとか。ワンモアさんのような福祉の方たちとかもいらっしゃるので、そういう方とコラボとかね。農業って人手不足って言われてるんですけども、そこを解消できないかとか。そういったことを色々試行錯誤しながら、実験しながらやってますね。

🎤その体験の付加価値っていうところでは、今まで施設の中では、なかなか生み出すことができなかった価値を渡邊さんに作っていただいて、本当にありがとうございます。

🧑‍🌾こちらこそありがとうございます。

●どうして福祉施設との連携を始めたの?」

🎤早速、聞いていきたいんですけど、ワンモアとコラボした取り組みも、もう二年近くになると思うんですけど、その中で、率直な感想と言いますか、ちょっと大変だったなとか、予想外だったなとかそういったエピソードってありますか?

🧑‍🌾一番最初の感想としては、僕はもう新規就農とは思えない規模感で一から飛び込んじゃってるので、やっぱり一番困ったのが、人手不足でした。ワンモアさんに定期的に来ていただいて作業をやって頂いたりとか、畑での作業だけじゃなくて、施設に持って来させてもらったりとか。もうめちゃくちゃ助かりました。

 色々一緒にやってみて気づいたこととしては、やっぱり福祉っていうものをあんまり僕らが理解してなかったので、そこをちゃんと理解してからやらないといけないなと思いましたね。労働力としてただ作業をするだけにならないようにとか、利用者の方々の特性とかっていうのを理解して、どういう作業ができるのかっていうのをうまく調整しないとなと思います。農家側の品質の担保の部分だけじゃなくて、作業してくださる利用者さんにも「農業って気持ちいいよね」って思ってもらいたい。つまらない作業になっちゃってるんじゃないかと、そういう部分が初めはわからなくて悩みましたね。

🎤私達も農作業のイメージがあんまり湧かない中でお願いしてしまってるところもあったので。熱中症とか体力面とか、ちょっと予想外のところもありましたね。

🧑‍🌾そうですね。農福連携を始める時に、思ってたことが二つあって。

 一つは、前職の時にすごい優秀な後輩の方がいたんですけど、僕が退職した後に、その後輩がうつ病になっちゃったことがあったんですよ。本当にめちゃくちゃ仕事ができて、すごい真面目で、人もいい子だったんですけど、うつ病になって結局会社を退職したんですね。僕よりよっぽどできたし、僕なんてあっけらかんとやってたのに、その子の方が自分に自信を持てないで、結局会社も辞めて、仕事もしばらく出来てないみたいなことがありました。結局その子は保育士として復帰してるんですけど。なんというか、すごいできることとか、ポテンシャルがあるのに、たまたまちょっと調子を崩しちゃっただけで、社会復帰が難しくなってしまうのを目の当たりにして色々考えましたね。やっぱり、持ってる力を発揮できる場所とか、環境とかに入ることが重要なのかなと思って、それを支援されているようなワンモアさんみたいな施設は、めっちゃ重要だと思いました。そういう施設と農業が連携できることがあるなら、まだよく分からないけど、とりあえずやってみたいなって思ったのがまず一つなんですよ。

🎤実際にワンモアに来てる方も、うつとか、いろんな病気で辛さを抱えている人たちではあるんですけど、やっぱり持っている力は、すごい輝くものがすごいたくさんあると私も思います。ワンモアの利用者さんも畑作業に行って、すごく生き生きしてるなと感じますね。

🧑‍🌾二つ目に思ってたことなんですけど、その時はまだ、サラリーマンもしていて趣味としての農業だったんですが、野菜を作るっていうことがすごい楽しかったんです。そこから商品を販売してみてとか、その活動を情報発信してみてどんどんいろんな人とつながっていく、その交流がすごく面白かったです。それを広めたいなっていう思いもあって専業農家になりました。なので、せっかくこういう機会が作れて、ワンモアさんの利用者の皆さんが農業に触れてくださるので、作るっていう作業だけじゃなくて、その作物がどういう風に世の中に出回って、誰がどう食べて、どういう感想を抱いてるのか、自分たちの仕事っていうのが、どう繋がってるのかっていうところまで、一緒に感じてほしいなと思ってます。YAO-OIHARA FARMER’S MARKETでの出店の話とか、色々おせっかいにやらせてもらってます。

●農家から見た農福連携とは

ワンモア八尾が行っている農作業

畑の整備作業(排水路の作成、マルチを張る)さつまいもの苗の出荷作業
草刈り作業ポップの作成
植え付け(さつまいも、オクラ)イベントのチラシのポスティング
オクラやさつまいもなど農作物の収穫商店への納品
さつまいもの計量イベントのサポート
さつまいもの両端カットとひげとり夢シルク関連商品の販売

🎤出店のお話は本当にありがたかったです。ワンモアの中での訓練は、やっぱりどうしても就労に向けての訓練っていうニュアンスになってしまうので、実際に社会の中で、販売して利益につながっているとか、お客様の喜ぶ顔に繋がってるみたいな体験に達成感、やりがいみたいなものを感じられる貴重な機会です。連携させていただく中で、渡邊さんの思い出に残ってるエピソードってあったりしますか?

🧑‍🌾やっぱり収穫イベントですかね。

 僕らは農業してる中で、親子連れ、子どもたちにたくさん来てもらう収穫は年間通しての一大イベントだと思ってます。でもイベント自体は、やっぱり人手がいるわけで。運営者みんなパツパツになりながら、朝から晩まで準備とか片付けとかしてるんですけど。収穫した芋をイベント来ていただいたお客様に持ち帰ってもらう分と、在庫として後日販売する分で分けるんですが、作物って生物なので、その日のうちにある程度下処理をしないと腐っていっちゃうんですよね。僕らは、イベント対応でばたばたしてて、なかなか手が回らない。でもワンモアさんに来てもらった時、僕らのイベント対応が終わった後に様子を見にいくと、もう芋の髭の処理が終わってて、下処理完了してますってことがあって、「ああ、すごい」と思って感動しましたね。すごい助かりました。

🎤イベントの一員として、畑への誘導や計量など、スタッフの役割を担えたっていう達成感は、私達も利用者さんもあったと思うんですよね。イベントが終わった後でみんなでひげ根を切ったりもして。利用者さんたちは、ワンモアの中で何かやるよりも、ひと仕事やった感が強かったと思います。

🧑‍🌾仕事をお願いする僕らと、仕事をするワンモアさんと、もう一人の仕事の受け手側お客さんの三者が会場に揃ってる中で、終わった感みたいな、やった感みたいなものがありましたよね。

🎤これからも色々作業させていただいたり、中には農業の世界で就労する利用者さんも出てくると思うんですが、連携する中で、渡邉さんが難しいなというか、悩んでいることって何かありますかね?

🧑‍🌾思うところとしては、毎週来ていただいている中で、作業をその方たちは楽しめているのだろうかとか、その人たちのためになってるんだろうかとか、仕事を押し付けちゃってないかなみたいな、そういう心配はずっとありますね。そこは利用者さんとかワンモアさんとのコミュニケーションをこまめにしながら、させてもらえるとうれしいかなと思っています。

 あとは農業は技術職でもあるし、シーズンものの作業が凄く多いので、そこの技術を教えて、何回かやったら、すぐまた次の仕事に切り替えてみたいな状態になってしまう。安定的な同じ作業っていうものが、なかなか農業においてはないので、そこが結構難しいなと思ってるところですね。毎回同じ作業を作れないっていうのは、もしかしたら僕ら側の問題かもしれませんけどね。

🎤作業スケジュールとか、利用者さん向けに色々準備をしてくださってる部分もあると思いますし、連携させてもらうことで、私たちが本来の業務を圧迫してないかなって心配してます。

🧑‍🌾めちゃくちゃ助かる時もいっぱいあるんで、来てもらうための作業準備と比べると、とんとんぐらいですかね。それはでもやっぱりちょっとずつ精度が上がっていくものだと思いますよ。それこそ先週お願いした出荷用に芋の苗を数本ずつ束ねて紐でくくるっていうのをやってもらったんですけど、めちゃくちゃ助かりました。

🎤ありがとうございます。そう言っていただけるとほんとに良かったです。

🧑‍🌾あと、思い入れある案件でもう一個あるのが、北海道に就職した方いらっしゃったと思うんですけど、どうされてますか?

🎤今も元気に北海道でやってますね。もともと環境とか酪農に興味がある方でしたけど、渡邊さんのところで土に触れて作業していく中で方向性がしっかり決まった感じです

🧑‍🌾すごいですよね。全然力になれてないと思うんですけど、でもちょっとだけ自信、自慢で。その方が農業関係の仕事に就かれて、それに間接的に関われたことが嬉しくて。やっぱりワンモアさんとの取り組みを始めるまで、僕らも福祉事業についてほとんど知らなかったんですよね。どういう制度で皆さん事業されているのかとか、どんな方たちがいらっしゃるのかとかよく分かってなかったんです。農福連携がもっと大きくなって色んな人が知るきっかけになったらいいなと思います。さらに言うと、農作業に取り組んでた人たちが、就職できるような体制までできると嬉しいなと思ってます。僕らもまだまだですけど、一緒に働いてもらえる仲間が増えるようにしていきたいですね。

🎤本当にそうですね。実際畑で作業して、農作物を販売してお客さんの手に渡るところを経験して、利用者さんの仕事の選択肢が広がるといいなと思います。

🧑‍🌾そうですね。今年の夏は、オクラを去年の三倍から四倍ぐらい作ってるんで、お手伝い是非お願いします。チラシのポスティングとか、商店さんに納品していただいたりとか、いろいろお願いできたらと思います。

🎤ポスティングはチラシを折る作業も、実際に歩いてポストに入れる作業もさせていただいてて。お預かりしているチラシなので、折る作業も気を遣いますし、ポスティングも体力作りになるので、就労に向けたいいトレーニングになってます。

●施設から見た農福連携

🧑‍🌾僕から質問してもいいですか?ワンモアさんのファームとの取り組みがスタートして、なんか利用者さんの新しい姿が見れたとおっしゃっていたんですが、印象に残ってる変化ってありますか?

🎤そうですね。収穫の芋掘り一つとっても共同作業だなと思うんですが、その共同作業の中で自分自身のコミュニケーション特性というか、人とうまく喋るのって意外と難しかったんだなっていうことに気づかれる方もいらっしゃいましたね。農業とはまた別のところでの発見が見られて。

🧑‍🌾事業所内でのコミュニケーションと違ってってことですか?

🎤コミュニケーションが自然に生み出されやすいのが農業なのかなと思います。収穫した芋をかごに入れて、それを保管場所に持っていくっていう、本当に簡単な流れだけでも、「じゃあ私それやっときますね」とか、「これ私が持ってきます」とか、コミュニケーションを目的としたプログラムではない中で自然に生まれてくると思います。

🧑‍🌾確かに、ただ作業するだけじゃなくて、作業量も多いし、手順もあるし…声かけしながらじゃないと進まないですもんね。

🎤他にもオクラの収穫の時もそうですね。私自身スタッフですけど、ちょっと時間が空いて遅れて収穫に参加したので、やり方を知らなくて。でも利用者さんに聞いたらすごい教えてくれて。

🧑‍🌾僕それめっちゃ面白かったの覚えてますね。スタッフさんに教えてあげてくださいって言ったの覚えてます(笑)

🎤それも利用者さんの自信になったと思うんですよね。人に自分が学んだ作業を教えてあげることって、どの仕事でもあるかなと思うのでそれを生み出せたのは本当にすごいなと思いました。

🧑‍🌾確かにそうですね。あと、シルクスイートバターのマルシェ用のポップを作っていただいたんですけど、そのデザイン見てびっくりして。ああ、こんなすごいの作れるんだって。多分僕らの知らない皆さんのできることっていっぱいあるんだろうなと思いましたね。僕が畑以外のところで抱えてる、やりたいけど手が追いついてないことがいっぱいあって、その中にもマッチする仕事がいっぱいあるじゃないかなって思います。農業の部分はちょっと基盤ができてきたんで、農作業以外にも新たに一緒にやれることたくさんあると思います。

🎤ポップも実際に販売で使ってもらえるっていうので、嬉しいですね。これからも色々できるといいですね。

🧑‍🌾誰かに何かをやってもらうのって簡単なようで実は結構難しい。農業と福祉の連携って、もうわりと農業界ではよく言われるものだけど、実際にどれぐらいの人できるんだろうとか、やってみて実際にうまく運用できる割合は結構少ないんじゃないかなと思ってます。

多分バランスが難しいんですかね。どこまでの仕事を任すのかとか、やってて楽しいなと思えることも大事かなと思いますし、価値も生み出していきたいですし。

🎤僕らもまだ全然上手じゃないかもしれないですけど、一緒にうまく連携できるようにしていきます。

🧑‍🌾そうですよね。たくさん横のつながりを作って、まず知ってもらって。他の農家や関係者とも関係性を作っていくのがこれからは重要ですね。

🎤いろんな方たちとのつながりの中で、利用者さんの働く可能性や選択肢を増やしていけたらいいですよね。実際の現場で色々させていただいて、自分の得意と苦手をリアルに体験できるのも農作業とか販売とかの魅力だと思います。今後もよろしくお願いします。

まとめ

農福連携では、対象者の方がどんな作業をどれぐらいできるのかを理解して委託することが重要です。その判断は、連携している福祉施設とコミュニケーションをとり調整していく必要があります。就労移行支援施設との連携では、農業体験としてだけではなく、仕事としての農作業(草刈りなど日頃の畑のメンテナンス)のお手伝いを依頼できたり、農作業以外の販売準備や広報活動、事務的な業務での協力を得られることもあります。

 就労移行支援施設側でも、通常の訓練ではなかなか感じ取れない仕事の難しさ、やりがいの体験、進路の広がり、自己理解の促進に効果が見込めるでしょう。

 win-winな関係性を構築し、農業と福祉双方の広がりを目指していきます。

丸

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