「高次脳機能障害はわかりにくい?」
京都橘大学 健康科学部 作業療法学科
高畑進一
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害は事故や病気による脳の損傷で意欲・感情、記憶、注意、理解、遂行機能などの機能が障害され様々な症状が出現します。
この障害の当事者の方々は全国で約50万人と考えられています。2000年以降、様々な支援制度も整備されてきましたが、まだまだ、ご本人だけでなく家族や支援者にとってわかりにくい障害と言われています。なぜなのでしょう。ある人の朝の様子をちょっと思いうかべてみましょう。
具体的には
目覚まし時計の音で目覚める〈覚醒〉。よーし、今日も一日頑張るぞー!と気合を入れる〈意欲〉。洗面所まで行き〈場所の記憶〉、自分の歯ブラシを間違えず選びだす〈注意、認知〉。歯磨きしながら今日の予定を思いだす〈記憶〉。朝ご飯を作り〈手続きの記憶〉、食べながらテレビやスマホでニュースや天気をチェックする〈言葉や文字の理解〉。天気図を見ると、午後から雨になりそうだ〈天気図の理解と推測〉。念のため折り畳み傘を持っていこう。洗濯物も雨にぬれるといけないので部屋干しにしておこう〈判断、計画〉。
ありふれた朝の風景ですが、脳はいろいろな機能を発揮しているのです(それを〈 〉内に示してみました)。私たちが当たり前に行っている日常生活は、休むことなく働く様々な脳の機能によって支えられています。しかし、このような脳の働きを自分自身が意識することはほとんどありません。ましてや外から他者がと見ることはできません。それは、私たちの心臓や肺の働きに似ています。心臓や肺も休むことなく働いていますが外から見えませんよね。
そして、病気やけがで(目に見えない)脳の働きが不調になると注意障害や記憶障害、思考障害などの高次脳機能障害が生じ、日常生活や仕事に様々な困りごとが現れるのです。心臓や肺が不調になると心不全や呼吸障害が生じ、階段上りや歩行で息切れがおこり日常生活に支障が出るのと似ていますね。
このように脳の働き自体が外から見えにくいこと、これが高次脳機能障害はわかりにくいといわれる一因だと思います。
高次脳機能障害を理解するためのおすすめ本
これを改善するために、高次脳機能障害の当事者やそのご家族が執筆した本が役立ちます。そこには、脳の不調が起こると、ご本人や家族が日々の生活で何を感じ、何に困り、どのように対処しているかが、わかりやすく具体的に述べられています。同じ障害のある方々やご家族だけでなく医療・福祉・介護にかかわる支援者にとっても有用な情報満載です。
以下にいくつかの書籍名をご紹介します。ぜひ、手に取ってみてください。
1)鈴木大介:「脳コワ」さん支援ガイド 医学書院 2020
2)柴本礼 :高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック日々コウジ中 主婦の友社 2010
3)山田規畝子:壊れた脳生存する知 講談社 2004