【Peach Aviation株式会社】障害者雇用だからできること~得意を活かす仕事って?~(セミナーレポート)
2023年3月Peach Aviation株式会社で障がい者雇用に従事されている黒木均様をお招きし、ワンモア豊中主催でセミナーを開催致しました。
✔「働く」とは
✔Peachにおける障がい者雇用
✔「働く場所」での合理的配慮ってなに?
今回のコラムでは、セミナーでお話しいただいた上記のテーマを基に、「障がい者雇用」「合理的配慮」そして「ワンモアでできること」についてご紹介します。
「今の働き方でいいのだろうか?」「今の職場が本当に自分に合っているんだろうか?」
そんなふうに、自身の働き方や働く場所について疑問や不安をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。
障がい者雇用ってなに?~制度の解説と仕事環境について~
ここでは、セミナーの内容に触れる前に「障がい者雇用」とはどういったものなのか、制度やワンモアスタッフの経験を交えてご紹介します。
✔障がい者雇用とは、法律で定められた障害者手帳を持っている方のための雇用形態
障がい者雇用とは、法律で定められた障害者手帳を持っている方のための雇用形態
障がい者雇用とは、「障害者雇用促進法」という法律に基づく雇用形態の一つで、文字通り「障がい者を雇用すること」を指します。ここで言う「障がい者」とは、「障害者手帳の交付を受けている者」を指しています。つまり、障がい者雇用枠で雇用されるには身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかの交付を受けていることが必要となります。
障がい者雇用の一番大きな特徴は、「合理的配慮」が得られることにあります。「合理的配慮」については次項以降で紹介しますが、簡単に言うと「障害の特性に応じた必要な配慮」のことを指します。この「合理的配慮」を受けられることが障がい者雇用の大きな特徴の一つです。
障がい者雇用の求人は、ハローワークでの求人検索やその他の求人サイトでも探すことが出来、障がい者雇用であっても仕事の種類は様々です。誰もが知る大企業での事務仕事もあれば、小規模な会社での軽作業、チェーン店での接客、介護職など様々な求人を目にします。しかし、求人の数で言うと、事務職や清掃、倉庫内作業の求人が目立ちます。仕事の種類が限定されているわけではないものの、偏りはあると言えるでしょう。
Peach Aviation株式会社のご紹介
ここでは、本セミナーでご登壇いただいた黒木様が勤務されているPeach Aviation株式会社の紹介を交えながら、セミナーでお話しいただいた内容について解説します。
Peach Aviation株式会社とは、格安航空「ピーチ」で知られる関西空港を拠点にする格安航空会社(LCC)です。セミナーの参加者の中にも利用したことのある方がいらっしゃいました。黒木様は「ほなやろ課」という部署で課長をお務めになっており、障がい者雇用の促進や入社後の体制構築に従事されています。黒木様は特別支援学校での教員を経てPeachに入社され、現在では様々な研修やセミナーでご登壇されています。黒木様が牽引される「ほなやろ課」には様々な障がいのある方が在籍しており、多岐にわたる業務を担っています。
✔「ほなやろ課」で担う責任ある業務
✔長く働くための8つのポイント
Peach Aviation株式会社の「ほなやろ課」で従業員が行う業務
「ほなやろ課」の業務は多岐に渡っており、経理業務や給与・勤怠業務、給油量概算管理や制服クリーニング、社員サポートなども担っています。ここには大きな特徴があり、それは「業務の切り出しをしていない」という部分です。一般的に多いとされているケースでは、「障がい者を雇用しようと思うから、どんな仕事をしてもらったらいいか考えよう」という感じで、障がい者雇用を前提に業務の切り出し・業務の準備を行います。しかし、黒木様は「会社で必要な業務をやってもらっているだけ」だとお話しされていました。一見すると、他の従業員と同じように働かないといけないから負担やプレッシャーが大きいのでは?と思われるかもしれませんが、Peachでは安心して働くことができる工夫がたくさん行われていました。その工夫によって、時間管理や安全管理に厳しいイメージのある航空会社でも、障がいのある方が責任を持って様々な業務に取り組むことが出来ているようです。
長く働くための8つのポイント
Peach Aviation株式会社では、従業員が長く安心して働くために8つのポイントがあるとお話ししてくださいました。お話しいただいたポイントは以下の8つです。
ジョブローテーション | 障害のある人材も「教える立場」「サポートする立場」なることで意欲向上 |
フリーアドレス | 業務内容や従業員の障がい特性に合わせて働く環境を自分で選択できる |
社員のマインドセット | 障がい者雇用についての研修や障がいの体験 |
目標設定 | 目標の設定と成果の振り返り |
プロファイルシート | 障がい特性や業務スキルの整理 |
定期面談 | 必要な合理的配慮の洗い出しや再検討 |
マニュアル | 業務の目的も交えて手順を可視化 |
多様なキャリアステップ | 入社時の雇用形態にとらわれない自己実現 |
これらのポイントの特徴は「障がい者」だけでなく、すべての従業員に対して提供されているということです。黒木様は「自分がして欲しいことをしている」と仰っていました。確かに、意欲の向上に繋がるようなシステムや業務スキルを整理するシート、マニュアル化やキャリアアップなど、これらのポイントはすべて、「障がい者」だから欲しい配慮ではなく「会社で働く従業員」にとって、あって嬉しいシステムのように感じます。
「合理的配慮とは、障がいを理由に特別扱いや優遇をすることではない。」「会社で働くことには責任が伴う。」そのようにセミナーの中で黒木様は仰っていました。厳しいお言葉のようにも感じますが、会社で働くことに責任が伴うのは当然のことですよね。しかし、支援者は「どうすれば障がい者のある方が働きやすいか」を考えるばかりで「どうすれば会社に貢献できるような働き方ができるか」と言った視点をついつい忘れてしまいがちです。それに、障がいのある方の中には障がい者雇用で働くことに、他の方と隔絶されているような印象を持たれる方もいるのではないでしょうか。自身の考えの偏りに気が付くとともに、障がい者雇用に対するイメージが良い方向に変化したお話しでした。
合理的配慮ってなに?~得意を活かした働き方の提供~
一つ目の項「障がい者雇用ってなに?~制度の解説と仕事環境について~」で、障がい者雇用と一般的な雇用の違いの一つは合理的配慮を受けられることだとお伝えしました。この項では、合理的配慮について具体例を交えながらご紹介します。
✔障がい者の権利を保障し、差別を解消するために定められた義務
✔黒木様が思う合理的配慮「生産性の向上、他の人との公平性を考えます」
障がい者の権利を保障し、差別を解消するために定められた義務
「合理的配慮」とは、「障害者差別解消法」で定義されているものです。
簡単に言うと、「障がい者の方が働きやすいように、会社の負担にならない範囲で行われる工夫」と言えるでしょう。わかりやすい例で言えば、車椅子ユーザーのために段差を解消してスロープを用意したり、聴覚が不自由な方のために筆談でコミュニケーションが取れるツールを用意したりすることが合理的配慮の一つと言えます。
ワンモアを利用されている方の多くは、精神障がいや発達障がいのある方です。その方々がどのような合理的配慮を必要としているのかいくつか例をご紹介します。
今挙げた例でもわかるように、「合理的配慮」はその方の症状や得意不得意によって異なるため、「合理的配慮=これ」というようなテンプレートはありません。そのため、障がいのある従業員と職場の上司、場合によっては支援者が入りながら、従業員はどのような配慮を必要としているのか、会社はどのような配慮までなら行うことが出来るのか、お互い納得して仕事ができる形を相談していくことが必要になります。
黒木様が思う合理的配慮「生産性の向上、他の人との公平性を考えます」
今回のセミナーでは、Peachで行っている合理的配慮について、事例を交えながらお話しいただきました。Peachでは、先ほどお伝えした「長く働くための8つのポイント」を中心に、合理的配慮を行っております。
黒木様は、合理的配慮を考える際に、
・あくまで「働くため/役割を果たすため」のものであるか
・他の人との公平性が保たれているか
・おこなった結果、生産性が向上しているか
・双方に感謝ができる工夫があるかどうか
これらのポイントに考慮しているとお話してくださいました。
会社とは、顧客のニーズに応じて商品やサービスを提供し、そこから利益を得るものです。会社で働いている従業員は、障がいの有無に関わらず、会社の利益に貢献できる人材でなくてはありません。この前提の上で、より働きやすい環境が整備されていることが、Peachでの「合理的配慮」でした。そして、業務や職場での人間関係であれば会社で対応が可能かもしれませんが、心身の不調については医療機関、就職の準備のことであれば就労移行支援、公的サービスのことであれば役所など、悩みに応じて対応できる機関は異なるため、悩みに応じて適切な機関の手を借りることもあります。
以上のお話には、黒木様の講義内容に、筆者の解釈が混ざってしまっていますが、会社での合理的配慮とは、障がい者の希望通りに会社や働き方を変えていくことではなく、適切な支援、適切な業務の工夫をしながら、生産性の向上に努めることなのかもしれませんね。
長く安心して働くために
合理的配慮は障がい者であるかどうかに関わらず、従業員が効率よく働くことができるようにするために会社が出来得る工夫であるということがわかりました。黒木様のお話しの中で特に印象的であったのは「障がいを理由に特別扱いはしない」というお言葉でした。これは決して「配慮しない」「厳しく当たる」と言った意味ではありません。会社はあくまでも顧客のニーズや社会貢献のためにサービスや製品を生産しており、従業員は会社の利益を上げるために働く存在です。会社が従業員に行うのは福祉サービスのような配慮の行き届いた「特別扱い」ではなく、会社の生産性を上げるために、従業員が働きやすくなるためにする「合理的な工夫」であるという意味でした。しかし、いくら会社が工夫や調整をしてくれていても、従業員自身の自己理解や社会性が不足していては、働いている間に壁にぶつかってしまうでしょう。この項では、会社で長く安心して働くために必要なことや、ワンモアでお手伝いできることをご紹介します。
✔業務のスキルよりも重要視される自己理解や社会性
✔ワンモアでできること~プログラム参加から就職後の支援まで~
業務のスキルよりも重要視される自己理解や社会性
「長く働くための8つのポイント」の項目でお話ししたように、Peachではプロファイルシートや定期面談を通して、現状の把握や工夫を洗い出しています。自分以外の客観的な意見も交えながら現状を整理できるのはとても有難いことですね。しかし、自分で自分のことをよく理解できていないと、困り感やどのような工夫をしていきたいのかを会社に伝えることができません。そのために必要不可欠なのが「自己理解」です。これは、会社で働きながら理解が深まることもありますが、基本的には会社に就職する前に自分自身について整理し理解しておくことが必要となります。
働くうえで重要視されるものとして、自己理解のほかに「社会性」があります。これは、パソコンスキルや技術的なものではなく、「その場に応じた服装をする」「同僚に挨拶されたら自分も挨拶をする」など、皆さんが日常で当たり前に行っていることです。しかし、ご病気によって会社や学校を休んでいる期間が長いと、なんとなく忘れてしまっていたり、発達障がいのある方は「自分が人からどう見られているか」という視点で考えることが難しかったりと、社会性の部分で苦労される方は珍しくありません。そのような場合は、いきなり会社に就職する前に、就労移行支援のような施設に通って、忘れている部分を思い出したり、新しく勉強したりすることができます。
ワンモアでできること~プログラム参加から就職後の支援まで~
それでは、長く安心して働くために必要となる「自己理解」と「社会性」について、ワンモアで提供できる支援について簡単にご紹介します。
ワンモアでは、約20種類のプログラムを通して就職の準備を行います。ワンモアのプログラムには、座学だけでなく「運動」や「体験する」ことができるプログラムが多くあります。体力を付けたり楽しい体験をしたりするだけでなく、他の利用者様と自然にコミュニケーションを取る機会が持て、社会性を身に付けることが出来ます。また、担当スタッフとの面談やプログラムへの参加、事業所外実習への参加などを通して自分の得意不得意を把握し、就職に向けてどのような工夫が必要かを考えていくことが出来ます。もちろん、就労移行支援に通っている間にすべてを完璧に身に付けていなくてはいけないわけではありません。ワンモアでは就職後も定期的に面談をしたり職場に訪問したりと継続して支援を行っているので、就職後も支援者や会社の方などに相談しながら自分への理解を深めていくことが出来ます。
さいごに
今回のコラムでは、ワンモア豊中が2023年3月に主催したセミナー「障がい者雇用だからできること~得意を活かす仕事って?~」にてPeach Aviation株式会社で障がい者雇用に従事されている黒木様にお話しいただいた内容をご紹介しました。
ゼロから始める就労支援ガイドブックにも記事がございます。
最後に、貴重なご講演をして頂きました黒木様に心より感謝申し上げます。