発達障がいの特性理解と強みを活かした働き方
皆さま、こんにちは。今回のコラムを担当します社会福祉法人北摂杉の子会の星明です。普段は、就労支援の部署で管理者をしています。今回のテーマは「発達障がい」ということで、就労支援の現場で学んだことを皆さんにお伝えできたらと思っています。
なお、文章がちょっと長いですので、気になるとこから読んでいただけたらと思います。
▼目次
先天的な脳機能障がい
能力のアンバランスさ
学習スタイルの違い
強みを活かした事例
ポイントは周囲環境との相性
おわりに
先天的な脳機能障がい
まずは、発達障がいについてです。先に断っておきますと、私はドクターや心理士ではなく社会福祉士の資格をもっています。なので、福祉の現場で学んだことを中心に発達障がいのことをご説明できればと思います。
発達障がいは先天的な脳機能の障がいといわれています。「先天的」とあるので生まれ持った障がいとなります。そのため、親の育て方や本人の努力不足、いじめや性格などの後天的なことが要因ではないことは明らかです。ここは押さえておきたいポイントです。
脳機能の障がいなので、情報処理に機能障がいがあるとも表現できます。インプットした情報(見聞きしたことや経験したこと)を脳内で処理したり、アウトプット(書く、話す、行動するなど)する一連の過程、もしくはその一部に機能障がいがあり、結果として弱みや苦手として現れたりします。
ただ、弱みだけが特徴ではありません。正確には「能力のアンバランスさ」が最大の特徴と言えます。弱みや苦手なことがある反面、強みや得意となることもあり、「できること」「できないこと」の差が大きく、そのアンバランスさが周りに理解されないために、結果的に生きづらさに繋がっていると感じる発達障がいのある人は多いように思います。
また、生まれ持った障がいではある一方で、診断の時期は人それぞれであったりします。幼少期の人もいれば、小学校や中学、大学などの学校に行ってから、もしくは社会人になって働き始めてからなど、発達障がいを知る時期は個人差があります。周囲環境によって強み弱みが変化するため、環境が変わることで生きづらさを感じ、通院を経て発達障がいを知る人も多いように思います。
ここでは、先天的であることを忘れずに、能力のアンバランスさや診断時期には個人差があることをまずは理解しておきたいと思います。
能力のアンバランスさ
前述でも触れた「能力のアンバランスさ」についてもう少し解説を深めていきたいと思います。人によってはアンバランスさというより凸凹と表現する方もおられるかもしれません。得意と苦手の差が大きく、図で示すと大きく波打つ偏りがあるのが特徴になります。
図にある赤と青は、発達障がいのある人を表しています。赤と青は共通点もあれば違いもあり、診断基準があるための共通点がある一方で、診断名が同じでも一人ひとりの特性に違いもあり、そんなことを表現したくて作った図になります。
「書くこと」「話すこと」「時間管理」など、図の項目は障がい特性を分かりやすく示したくて作りました。なので、これらの項目は診断基準とは違ってきます。能力のアンバランスさを伝えたいために作った簡易なものであることを前提として話を進めていきます。
左側から「書くこと」「話すこと」と続きます。この2つは、個人差があることから赤と青で違いを表現しました。ただ、「時間管理」は苦手と言う方は多いように思い、赤・青ともに苦手に位置します。「客観視」「感情のコントロール」「聴覚情報の処理」なども同じでしょうか。苦手となる共通点は、これ以外にもいくつかあるように思います。
また、得意の共通点としては、「視覚情報(文字、図、写真)」などです。目で見て理解する、写真や動画で仕事内容を覚えるなど、口頭ではないインプットは得意であり、情報処理をスムーズにさせていて、図もそのように表現しました。
アンバランスさや凸凹と言われる背景は、上下の差が大きいことにあります。図にあるグレーの小さい折れ線グラフは発達障がいのない人を表現していて、グレーと赤・青で比較すると差の大きさの違いがわかります。赤・青にある差の大きさは、周囲にとって分かりにくさを生んでいるとも言えます。「◯◯がとても得意」と思われる反面、簡単そうに思えることが「とても苦手」と見えるギャップがあり、そこに周囲の理解が及ばないのかもしれないです。
能力のアンバランスさを考える際は、差の大きさや苦手なことに着目するのではなく、得意も含めた全体を知ることが発達障がいを理解する大事な一歩になると思います。
見えないことが苦手
発達障がいの特性は、いくつかの項目に分けて整理することができます。私たちの就労支援現場では、自閉スペクトラム症の人が多いため、「社会性」「コミュニケーション」「こだわりと想像力」「感覚面」の4つぐらいで特性をまとめています。それぞれの説明をすると長くなってしまいそうなので、ここでは「想像力」に焦点を当てて考えていきたいと思います。
「こだわりと想像力」では、以下のようにいくつかの特徴があります。
・同じ行動、パターンになりやすい
・ルールに厳格、間違いや例外を受け入れにくい
・興味関心に偏りがある
・気持ちの切り替えが苦手
・人(相手)の気持ちが想像できない
・時間管理、時間の流れがイメージしづらい
・初めてのことや急な変更に混乱しやすい
これらは全て、「見えないことが苦手」とも言い換えることができます。特に、人の気持ち、時間管理、初めてのことなどがそうでしょうか。見えないことに不安や混乱を感じやすいために、同じ行動やパターンになりやすく、間違いや例外などルール外のことを受け入れにくい面も持ち合わせています。
見えないことは曖昧です。はっきりしない分、イメージしづらくて不安になります。これが想像力の特性です。不安な気持ちは自分なりになんとか解消したいために、明確で具体的なこと、もしくは経験済みのことに固執したくなるため、こだわりやパターン化が助長されるとも言えます。
見えないことは、どうしても世の中にたくさんあります。曖昧で、はっきりしないことは、自分の周りを見渡すとたくさんあるものです。暗黙のルールなどもそうでしょうか。発達障がいのある人が見ている世界は、障がいのない人とは違った意味を持ち、特に「見えないことを想像する難しさ」が仕事や生活を進めにくくしているように思います。
学習スタイルの違い
もう5年以上前の話になりますが、2017年に一週間ほどアメリカに行かせてもらいました。目的は、ノースカロライナ州にあるノースカロライナ大学TEACCH部に行くことです。飛行機での長旅は大変でしたが、TEACCHの理念や実践はとても刺激的で、大学での実践に加えてGHAの実践(GHAは、自閉症の就労・生活全般を専門的に支援をする非営利組織)も学ばせてもらいました。そこで教えてもらったのが「学習スタイル」という考え方です。
「学習」とは、経験を通じて知識や環境に適応する態度・行動などを身につけていくこと。発達障がいのある人は学び方や習得の仕方について、発達障がいのない人とは違うスタイルがあると言われています。以下は、学習スタイルを整理した図になります。発達障がいのある人の得意なことと苦手なことに分けて書いています。
勉強の仕方や仕事の覚え方など、学習の仕方は人それぞれだと思います。徹夜で翌日の試験に臨む人もいれば、コツコツ励む人もおられるでしょうか。仕事においても、マニュアルを熟読してから仕事を始める人もいれば、やりながら経験とともに覚える人もいたり、文字での理解が得意な人もいれば、写真や動画などの指示が分かりやすい人もいるかと思います。学習スタイルは、自分に置き換えてみても人それぞれの違いがあることがわかります。
図にある学習スタイルは、「得意なこと」に着目して学習を進める、支援を進めることに意味があります。つまり、発達障がいのある人にとって分かりやすい学び方を重視するということです。ひとりで取り組む、目で見て理解する、経験から学ぶなど、得意なことが活かせる方法で学習すると、学びは深まり、職場での活躍も期待できます。職場で働く人なら、上司や先輩に手本を見せてもらう、写真や動画を使って手順を教えてもらうなどのお願いをすると学習も進みやすくなるはずです。
学習スタイルは、誰にでも当てはまる考え方なので、ぜひ自分自身に置き換えながら活用してもらえたらと思います。ちなみに私も、目で見て理解する、経験から学ぶをとても好むタイプです。
強みを活かした事例
私の知っている発達障がいのある人で元気よく挨拶をする方がおられます。いつも元気で明るくて、律儀に挨拶する姿はとても気持ちがよく、その方と挨拶するとこちらもたくさんの元気がもらえます。
その方は、職業訓練を経て、製造企業で就職をされました。出社後の朝の挨拶はいつも元気で、作業中の返事や来客の方への挨拶も安定感のある気持ちのよい挨拶です。働き続ける中での元気な挨拶は職場内に浸透し、「元気の良さ」「明るさ」「気持ちのよい挨拶」は同僚たちに伝染して、職場が活気づいていったようです。「挨拶」はこの方の強みとなり、裏表のないまっすぐな姿は職場によい影響を与えていると社長さんも高く評価されています。
もう一人の発達障がいのある人は、職場の社長さんから「人柄が強み」と言ってもらっています。「挨拶はしっかりしている」「言葉遣いが丁寧」「彼と会話するとほっこりする」「彼の存在は大きい」など、社長さんはベタ褒めです。強みというと資格や業務スキルを思いがちですが、「挨拶」「人柄」はその人一人ひとりが持ち合わせた固有のものであり、それらが職場で評価されることは大いにあると思います。
また、適職についても考えてみます。発達障がいのある人の強みを考えてみると、図のように様々にあるように思い、職場で活かせる可能性はたくさんあります。
「細部への注意力」「正確さ」「反復やルーチン」「明確な業務」などは強みを業務に活かしやすいように思います。それに、前述の「学習スタイル」と業務の特性がピッタリ合えば、力はより一層発揮することができます。
個人的には、「素直」「律儀」「真面目」「誠実」なところが何よりも強みと感じます。先ほどの社長さんお二人の評価は私も強く共感でき、職場に強みを評価される姿はご本人もとてもうれしそうですし、強みと職場の関係性はとても大切だと感じます。
ご紹介した2事例は、私たちが運営する就労移行支援事業所で制作した動画を参考にしています。よろしければご覧になってください。
https://www.youtube.com/@user-uz6es6me4g/videos
ポイントは職場環境との相性
発達障がいのある人が職場で活躍することを考える際、「環境との相性」は大事なポイントであると思います。最後はそんな話です。
図は、障害者職業総合センターが発行した「発達障害を理解するために2~就労支援者のためのハンドブック~」からの引用です。発達障がいの3つの特性を強み弱みで対照的に記載がされています。
図について解説を進めます。社会性の特徴についてです。強みには、「年齢や立場にとらわれず公平に考える、ルールを重んじる、誠実」とあり、弱みについては「正直すぎる、融通が利きにくい、立場を気にせずトラブルになることがある」と書かれてあります。発達障がいは先天的な障がいでもあるため、病気のように治るものではなく、生まれつきのために特性は変わらないです。ただ、周りの人が発達障がいの特性を強みと思うか、もしくは弱みと思うかは周りの人(環境)次第でもあり、ここに「相性の視点」が大事となってきます。
職場環境との「相性」について、とある製造企業の話から考えてみます。
この企業の作業現場では、3S活動(整理・整頓・清掃)に力を入れておられます。モノづくりで使う道具、資材や在庫などはキレイに整理整頓がされ、どこで何の作業をするか、どこに何が保管されているかなどは、一目瞭然です。3S活動は、社内で毎月取り組む重要なテーマとされていて、毎月の取り組みで職場環境はどんどん進化しておられます。
「学習スタイル」でも触れましたが、発達障がいのある人は目で見て理解することが得意であり、視覚的な情報処理を強みとします。つまり、3S活動がされた職場であればとても働きやすくなります。発達障がいのある人と職場環境の相性はバッチリです。
社会人となって働く際、「誰と働くか」、「どこで働くか」、「どんな環境で仕事をするか」は一人ひとりにとってとても大事となる視点です。どんな職場環境だと働きやすいかは、長く働く上で重要なテーマであるように思います。
おわりに
今回は、発達障がいをテーマに書かせていただきました。長文になってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
最後に、私ごとで恐縮ですが、福祉の仕事を始めて20年になりました。この間、障がい者雇用や就労支援に関することは時代とともに大きく変わり、20年前と比べると障がい者雇用企業はとても増えています。もちろん、法定雇用率の引き上げも影響しているとは思いますが、発達障がいのある人が社会で活躍されることも増え、雇用する企業側の理解も高まってきているのも事実です。
私の所属する就労支援施設では、ハローワークと連携して企業に電話かけを行い、見学や実習のお願いをしています。そんな電話かけは、昔に比べると障がい者雇用を知る企業、理解する企業は増えていると感じています。発達障がいへの認知も広がっていて、働く場所の広がりはこれからも期待できるように思っています。
発達障がいのある人が自分の強みと弱みを少しずつ整理される中で、強みが活かせる職場との出会いに繋がれば、職場環境との相性の良さも合わさって職場できっと活躍することができると思います。その橋渡しは就労支援員やジョブコーチの役割でもあるので、支援者ととに進めることも長く働くことに繋がるようにも思います。
コラムで書かせていただいたことが、読者の皆様にとって少しでも参考になることがあれば嬉しく思います。最後までご覧いただき、ありがとうございました。