ADHDのお仕事あるある~前編~
前回アスペルガーの方のお仕事あるあるを前編・後編でお伝えしましたが、今回はADHDについて、就労移行支援スタッフにインタビューを行いました。
今回インタビューに答えてくれたのは、ワンモアの法人理事である金川善衛さんです。精神科デイケアで5年半勤務された後、就労移行支援事業を15年。その後就労後支援(ジョブコーチ事業)運営と実践に従事されており、2023年4月よりワンモアの法人理事として人材育成や経営戦略にも携わっておられます。今までのご経験を踏まえてADHDの特性や仕事での困りごとなどについてお話いただきました。
【今回の内容】
✓ADHDとは?
✓職場で困ることあるある~マルチタスク~
✓職場で困ることあるある~口頭指示・抽象的な指示~
✓特性は人それぞれ~自分の特性を正しく理解するために~
以下
金川さん→👨🏽🦱
インタビュワー(ワンモアスタッフ)→👩🏻
ADHDとは?
👩🏻「ADHDって最近良くメディアなどでも取り上げられていますが、どういったものなのでしょうか。」
👨🏽🦱「広く言うと、発達障がいの一つで、日本語では『注意欠如・多動症』と呼ばれています。
ADHDは3つのタイプにわけることができ、①不注意が優位なタイプ②多動が優位なタイプ③衝動が優位なタイプがあります。不注意というのは、名前の通り、物を忘れてしまうとかケアレスミスなど何かを見落としてしまうことなどが挙げられます。多動というのは、動きがずっと落ち着かない、ウロウロしてしまう、じっとしていられないなどがあります。衝動は本当に突発的なことですよね。その時の感情に任せて行動してしまうとか、自分が欲しかったら取るとか、やりたかったらやるとか、話始めると止まらないなんてこともあります。」
👩🏻「3つのタイプがあるんですね。ただ、その特性だけを聞いていると、生活面や仕事をする上で困ることや悩むことも多いのではないかなと思うのですが…。」
👨🏽🦱「その通りなんですよね。ADHDがあると、学校生活や仕事場面などにおいて困難なことに直面することが多いんです。例えば、仕事をしている中でケアレスミスが多い、相手が話していることを遮って、話し始めてしまう、言われたことをすぐ忘れてしまう・・・。すると周囲の人(上司や教師、家族)から叱責され、失敗した経験だけ残るんです。本人はやる気があるのに、どう取り組んでいいか、頑張り方が分からない場合も多いんですよね。失敗パターンを繰り返すとさらに周囲の人からは『何度も言っているのになんで分からないんだ』『こんな簡単なことなんで出来ないの』など言われ、本人も『どうせ頑張ってもうまくいかない』『また怒られる』など何をするにしてもネガティブなイメージが湧きやすく、それに伴って自信がどんどんなくなって自己肯定感が下がってしまうことも少なくないんです。」
👩🏻「確かに本人や周囲の理解がないと、どうしていいか分からないですよね。ワンモアに通所されている方も、職場環境に上手く馴染めなかった方や、自分の特性を理解しきれていなくて周りにどう助けを求めていいのか分からず辞めてしまって、1つの仕事が長く続かず職を転々とされている方も多いです。」
👨🏽🦱「そうですよね。仕事でミスばかりが目立って怒られたり責められたりすることが多かったりすると、そこでうつ病などの二次障害を発症してメンタルダウンをしてしまって辞めてしまうという方もいらっしゃいます。ADHDの方の行動って衝動や多動など目立つ行動が多いのが特徴なんです。となると、集団の中で“みんなでやっていこう”となった時に、その流れや枠から飛び出してしまったりすることもあると思うんですよ。すると居づらくなってしまったり、集団に馴染めなくて仲間外れにされてしまったり、交友関係を上手く気づけなくて孤独感や疎外感など嫌な思いをされることも多いんです。」
職場で困ることあるある~マルチタスク~
👩🏻「実際、金川さんが今まで就労支援をされてきた中で、就職するまでや就職後でこういう場面で困りやすいとか、苦戦される状況ってありますか。」
👨🏽🦱「タイプによっても異なるところはあると思いますが、いっぱいの情報の中から一つ選ぶというのは苦手な方が多いですよね。例えば一個挙げるとするとマルチタスクですよね。二つのこと同時に言われたら一つのことを忘れてしまうとか…。実際に支援した中では、スーパーの青果売り場でにんじんやジャガイモなどズラッと並んでるコーナーあるじゃないですか。その中から腐っているのを見つけだすという業務だったんですけど、情報が多すぎてなかなか見つけられなかったりということがありました。複数の業務があるとどこから手をつけていいのか優先順位が分からず、期限内に仕事が終わらないなどもよくありますね。」
職場で困ることあるある~口頭指示・メモ~
👨🏽🦱「あとは、指示が言語的だと忘れやすいですよね。」
👩🏻「言語的といいますと?」
👨🏽🦱「ようは『あれしといて』、『これお願いね』という指示を口頭で言われるとその瞬間は覚えていても、忘れやすかったりすることが多いんですよね。口頭指示を受けながらメモするのは、①指示を聞いて②言葉を覚えておきながら③文字におこすというマルチタスクになるので、時間を要したり、途中で注意が逸れてしまい大事なところを聞き逃してしまう方もいらっしゃいますね。メモがとれてもどこにメモをとったのか、メモをした紙をどこに置いたかを忘れてしまうこともよくあります。整理整頓が苦手な方も多いので、机の上やカバンの中が散乱していることが多く、クシャクシャになって出てくることもありますね。」
👩🏻「その光景はワンモアでもよく目にします。指示されたことを忘れないようにメモに残すというだけでも、特性によって工夫が必要そうですね。」
特性は人それぞれ~自分の特性を正しく理解するために~
👨🏽🦱「そうですね。同じADHDの診断を受けていても、注意も多動も衝動も全部ある方もいらっしゃれば、不注意優勢の方とか、多動優勢の方とかその方の特性によって分かれるんですよね。物忘れがすごく多いけど、落ち着いて行動できる人もいますし、逆にすごく多動だけど物忘れしないって人もいますし。ADHDだからと言って、こういうことができないと決めつけるのではなく、ちゃんと本人の特性を知って、本人も私はADHDの中でもこういう特性があるから、これが得意でこれは苦手などの情報整理をして自己理解を深めていくことが就職を進める上でもいいと思うんです。
でないと、周囲の人も大変だと思うんですよね。そういう特性があると知っていれば、突拍子もないことをやっても許容できるというか…。よっぽど酷いことじゃない限り『またやってるわ』とかくらいで済むケースが多いと思うんです。ただ何も分からない状態で付き合っていると、『なんか場を乱す人だよね』ってなるじゃないですか。自分の特性をちゃんとわかっておくと、周りも接しやすくなるし、周りの負担も減ると個人的に思いますね。」
👩🏻「じゃあまずは、お仕事に就く前に自己理解を深めて、自分はどういった特徴があるのか、得意や苦手なことは何なのか等を整理して共有しておくことが大事ということですね。」
👨🏽🦱「その時にどういう風に進めていくかというと、周りから自分の行動について聞くのも一つの有効な手段なんですよね。『○○さんから見ていて気になることがある?』とかエピソードを拾っていくと、自分では気づいていないことや忘れていることも多かったりするので、エピソードから自分の理解を深めていくと、『自分って周りからこう見られているんだ』『こんな自分あるんだ』など気づきや自分の知らなかった一面が見つかることも多いんですよ。その際に、自分の認識と周囲からみた認識の差にギャップが少ないということも大事になってきます」
次回は…
今回はADHDの方の特性と職場で困ることについてお話いただきました。3つのタイプがあって、自分はどのタイプなのか、どういった特性があるのか正しく理解することが大事だと分かりましたね。
次回は、【ADHDさんの働く際に必要なサポート】についてお話していただきます。